その男は転職を考えていた。
スマホで求人サイトを眺めてみるも、良さそうな仕事はなくため息が出る。
ふと男の手が止まる。
『産業スパイを募集します』
スパイ活動なんて映画みたいでかっこいいではないか。
早速、男は面接のアポをとった。
入社試験当日。
ビルの四階の会議室に受験者たちが集まっている。
かなりの倍率のようだ。
やがて受験者たちに封筒が渡された。
しっかりと封が閉じられている。
試験官は、受験者たちを見渡し言った。
「この封筒は重要な書類です。地下二階にある部屋に、そのまま届けてください。一番最初に部屋にたどり着いた方を採用いたします」
受験者たちは大急ぎで地下二階に向かった。
エレベーターで向かう者、階段で走って向かう者。
男は駆け足に自信がなく、半ばあきらめていた。
「スピード勝負じゃ勝てないよ」
産業スパイになりたかっただけに落胆は大きい。
男はそのまま帰宅するつもりで封筒を開け、中身を見た。
みるみる男の顔が明るくなる。
そして、男はビルの五階に向かった。
解説は下へ。
解説
おそらく男は試験にパスした。
重要な書類の中身を盗み見た男こそ、産業スパイにふさわしいと判断されたのだろう。